陸上長距離・マラソンを走るランナーにとって重要となる指標がランニングエコノミー(RE)。ランナーの走力を客観的に測る指標と言えば、VO2MAX(最大酸素摂取量)とLT値(乳酸性作業閾値)がありますが、ランニングエコノミーもそれらと並ぶ重要な指標の一つです。また、ナイキのプロジェクトであるマラソン2時間切りを目指す「Breaking2」においても、挑戦するランナーの能力を評価する上でVO2MAXとともにランニングエコノミーが重視されました。
この記事では、ランナーにとって重要な数値であるランニングエコノミーとはどんなものか、またランニングエコノミーを測定する方法や数値の目安、改善のために出来るトレーニングの仕方についても紹介しています。REとはどんなものか気になっている人や、マラソンのタイムを伸ばしたい人は是非参考にしてみてください。
目次
ランニングエコノミーとは

ランニングエコノミー(RE)とは、一定の速度で走る際に体内で消費する酸素量やエネルギー量を示したものです。
長距離・マラソンを走るランナーは、呼吸によって体内に取り込んだ酸素を使って体内の糖質や脂肪から走るためのエネルギーを作り出しています。同じペース(速度)で走るにしても、より少ない酸素消費量で走れるランナーはより多くの酸素を必要とするランナーよりもランニングエコノミーに優れていることになります。
長距離ランナーの能力を客観的に示す重要指標にVO2MAX(最大酸素摂取量)というものがあります。VO2MAXとは、運動中に体内へ取り込み利用できる酸素量の最大値を示すもの。同じVO2MAXのランナーでも、一定のペースで走る際にどれだけ少ない酸素量で済むかによってパフォーマンスは大きく違ってきます。そのため、現在はVO2MAXだけではなく、ランニングエコノミーやLT値も長距離ランナーのパフォーマンスを左右する重要指標として注目されています。
ランニングエコノミーは車の燃費と考えると分かりやすい

ランニングエコノミーは車の燃費で考えると分かりやすいです。
車の燃費とは、ガソリン1ℓでどれだけ長い距離を走行出来るかを示したもの。燃費が良いと言われる車は、燃費が悪いとされる車と同じガソリンでも、より長い距離を走ることが出来ます。また、車の燃費は、車のもともとの性能だけではなく、ドライバーの運転の仕方や乗員人数や積み込む荷物によっても大きく変わってきます。
車をランナーの体とすると、ガソリンは走るために消費するエネルギーに相当します。ランニングエコノミーに優れたランナーは、同じエネルギー消費量でも、より速いペースで走り続けることが出来ます。また、ランニングエコノミーは、ランニングフォームや体調、走行するコース、履いているランニングシューズによっても変わってきます。
ランニングエコノミーの数値の目安
ランニングエコノミーは、一般的に一定の速度で走る際の酸素消費量(ml/kg/min)や、1km走るために必要となる酸素量(ml/kg/km)などで評価されます。
例えば、1km走るために体重1kgあたり200mlの酸素を消費するランナーと220mlの酸素を消費するランナーがいた場合、同じ条件であれば200mlのランナーの方がランニングエコノミーに優れていることになります。
つまり、ランニングエコノミーは数値が低いほど効率よく走れていることを意味します。
ただし、ランニングエコノミーにはVO2MAXのように広く共通する明確な平均値や基準値があるわけではありません。測定する速度や傾斜、使用する機器、評価方法などによって数値が変わるため、異なる条件で測定した数値を単純に比較することは出来ません。
そのため、一般市民ランナーの場合は、他人との数値の比較よりも、同じ条件で測定した自身の数値がどのように変化しているかを確認することが重要です。
ランニングエコノミーを測定する方法

ランニングエコノミーを正確に測定するには、専門施設のトレッドミルと呼気ガス分析装置を活用します。マスクを装着したまま、一定速度で数分間走り続け、酸素摂取量(VO2)が安定した状態で測定を行い、ランニングエコノミーを評価します。
アスリート選手の場合はランニングエコノミーを専門施設で測定することが出来ますが、一般市民ランナーの場合は気軽に測定できる施設が限られています。
また、普段のランニング中に測定する心拍数やペースからも走りの効率をある程度推測することは出来ますが、心拍数だけでランニングエコノミーを正確に測定することは出来ません。
ランニングエコノミーをガーミンウォッチで確認する方法

市民ランナーがランニングエコノミーを確認する場合に参考となるのが、ガーミンのランニングウォッチを活用する方法です。
以前はガーミンウォッチでランニングエコノミー自体を確認することは出来ませんでしたが、現在は対応するランニングウォッチと専用アクセサリーを組み合わせることで、ランニングエコノミーの推定値を確認出来るようになっています。
例えば、Forerunner 970などの対応機種では、HRM 600などの対応する心拍計と組み合わせることで、ランニングエコノミーを推定する機能が利用出来ます。数値は1km走るために体重1kgあたりどれだけの酸素を消費するかを示すml/kg/kmで表示され、数値が低いほどランニングエコノミーに優れていることを意味します。
ただし、ガーミンのランニングエコノミーは呼気ガスを直接分析した実測値ではなく、各種ランニングデータを基に算出された推定値です。そのため、専門施設で測定する数値と必ずしも一致するわけではありません。
また、ランニングダイナミクス機能で確認できる上下動や接地時間、ピッチ、ストライドなども、自分の走り方を分析する際の参考になります。ただし、上下動が少ない、接地時間が短いというだけで、必ずしもランニングエコノミーが良いとは限りません。
ランニングエコノミーの改善具合を確認する際は、一つの数値だけに注目するのではなく、同じペースで走った際の心拍数や疲労感、実際のレースタイムなども併せて確認するのがオススメです。

ランニングエコノミーを高めるためにトレーニングで出来る7つのこと
①ランニングキャリアを地道に積み重ねる

ランニングエコノミーを高めるためには、まずはランニングキャリアを積み重ねることが重要です。ランニングエコノミーは一朝一夕に改善出来るものではありません。ランニングエコノミーを改善し、少ない酸素量で効率よく走れるランナーになりたければ地道に走り続けていく必要があります。
RE改善へ向けて地道に走り続けるべき理由の一つが、筋肉や神経系の適応です。私たちの骨格筋は大きくタイプⅠ型筋線維とタイプⅡa型筋線維、タイプⅡx型筋線維などに分けることが出来ます。タイプⅠ型は遅筋と呼ばれるもので収縮速度が遅く長時間の運動に適した筋肉。タイプⅡa型は中間的な特性を持つ筋肉で、タイプⅡx型は収縮速度が速く瞬発力を要する運動に適した筋肉です。
持久的なトレーニングを続けることで、筋肉内のミトコンドリアや毛細血管が発達し、酸素を利用してエネルギーを作り出す能力が高まります。また、速筋線維の性質が持久的な運動に適した方向へ変化することもあります。ただし、速筋がそのまま遅筋へと変わるわけではありません。
さらに、走り続けることで神経や筋肉の連携が洗練され、自分に合った効率の良い走り方を身に付けやすくなります。そのため、長期的にランニングを継続することがランニングエコノミーの改善につながるのです。
②月間走行距離を増やす

ランニングエコノミーを改善するためには、ランニングフォームをいかに無駄の無いものへと改善することが重要と言われています。しかし、この脚の使い方、この腕の使い方がランニングエコノミーに優れた走り方だというスタンダードとなる走り方は存在しません。個々のランナーによって体格はもちろん手足の長さ、そのほかにも挙げればキリがないほどに個々の体に違いがあります。
そのため、自分にとって無駄の少ない走り方を身に付けるには、継続的なランニングが重要です。適切な練習量を積み重ねることで、筋肉や神経系が走る動作に適応し、ランニングエコノミーの改善につながる可能性があります。
ただし、月間走行距離を増やせば増やすほどランニングエコノミーが良くなるというわけではありません。急激な走行距離の増加は疲労の蓄積や故障につながる恐れがあるため、現在の走力や練習量に合わせて無理なく距離を伸ばしていくのがオススメです。
③インターバル走(レペティション)をする

ランニングエコノミー改善にはインターバル走やレペティションを取り入れるのもオススメです。
ゼーゼーハーハーと息が切れる中取り組むインターバル走は、体内で酸素を取り込み利用する能力であるVO2MAX(最大酸素摂取量)を向上させるのに効果的なトレーニングです。また、速いペースで走る練習は、普段のジョギングとは異なる筋肉の使い方や走動作に慣れる機会にもなります。
ただし、VO2MAXの向上がそのままランニングエコノミーの改善を意味するわけではありません。また、インターバル走やレペティションによるRE改善の効果には個人差があります。
そのため、ランニングエコノミーを高めたいからといって高強度トレーニングばかりに取り組むのではなく、ジョギングやロング走などの持久的なトレーニングと組み合わせて取り組むのがオススメです。
④筋力トレーニングで脚力や体幹を鍛える

走る時に無駄の無い良い走りをするためには、筋力を鍛えておくことも大事です。
ランニング中は通常の歩行と違って片脚で着地し、地面からの反発を受けながら前へと進んでいきます。そのため、下半身の筋力や体幹の安定性は効率の良い走りをする上で重要です。
特にランニングエコノミーの改善に効果が期待できるのが、スクワットやカーフレイズなどの筋力トレーニングです。2024年に発表された複数の研究をまとめた分析でも、高負荷の筋力トレーニングや複数の筋力トレーニングを組み合わせる方法がランニングエコノミーの改善に役立つ可能性が示されています。
また、プランクなどの体幹トレーニングも姿勢を安定させるために役立ちます。ただし、体幹トレーニングだけでランニングエコノミーが大きく改善するとは限らないため、下半身の筋力トレーニングと組み合わせるのがオススメです。
⑤適正体重を維持する

適正体重を維持することも、効率よく走るためには重要です。
重たい車は軽い車に比べて燃費が悪くなるように、ランナーの場合も体重が増えると走るために必要なエネルギー量が増える傾向にあります。オリンピックや世界陸上を見てみると分かりますが、短距離選手ではたくましい筋肉が付いた選手が多い一方、長距離選手ではスラッとした体型の選手が多いです。
ただし、体重を落とせば必ずランニングエコノミーが改善するというわけではありません。そもそもランニングエコノミーは体重あたりの酸素消費量で評価することが多く、単純に体重を減らすだけで数値が良くなるとは限りません。
また、無理な減量によって筋力が低下したり、エネルギー不足に陥ったりすると、かえってランニングパフォーマンスが低下する恐れがあります。
そのため、ランニングエコノミー改善のために体重を落とすことを最優先にするのではなく、十分な栄養を摂りながら自分に合った適正体重を維持することが重要です。
⑥ストライドとピッチを意識する

ストライドとピッチを意識するのもランニングエコノミー改善のために役立つことがあります。
ランニングの速度は、一歩あたりに進む距離であるストライドと、1分間あたりの歩数であるピッチによって決まります。同じペースで走る場合、ストライドが大きいほどピッチは少なくなり、ストライドが小さいほどピッチは多くなります。
ただし、ストライドは大きければ大きいほど良いというわけではありません。無理にストライドを伸ばそうとすると、足が体の前方へ着地しすぎてブレーキがかかり、かえってランニングエコノミーが低下する可能性があります。
また、ピッチについても180歩/分がすべてのランナーにとって理想というわけではありません。体格や走るペースによって適したピッチやストライドは異なります。
そのため、無理に大股で走ったり、ピッチを上げたりするのではなく、自然でリズムの良い走り方を意識することが重要です。普段のランニングに加えて短い距離の流しなどを取り入れ、速い動きにも慣れていくのがオススメです。
⑦プライオメトリクストレーニングを取り入れる

プライオメトリクストレーニングを取り入れるのもオススメ。
プライオメトリクストレーニングとは、多くのアスリートが採用する瞬発力系トレーニングです。代表的なものはボックスへと両足を揃えてジャンプするボックスジャンプ。そのほかにも、縄跳びや連続ジャンプ、バウンディングなどがあります。
長距離走ではあまり瞬発系は関係ないと考えてしまいがちですが、長距離走でも着地してすぐに地面を押し出すという動きをずっと繰り返しています。そのため、プライオメトリクストレーニングで筋肉や腱の働きを改善することが出来れば、ランニングエコノミーの改善につながる可能性があります。
実際に、複数の研究をまとめた分析でも、プライオメトリクストレーニングによってランニングエコノミーが改善する可能性が報告されています。
ただし、ジャンプ動作は足首や膝、アキレス腱などに負担がかかりやすいため、いきなり高強度のトレーニングに取り組むのは避けたいところ。まずは軽いジャンプなどから始め、筋力や体力に合わせて徐々に負荷を高めていくのがオススメです。
ランニングエコノミーを改善してマラソンのタイム向上につなげよう

長距離・マラソンを走るランナーにとってランニングエコノミーは非常に重要な指標です。同じVO2MAXのランナーでもランニングエコノミーの良し悪しによって大きくタイムは変わります。そのため、マラソンのタイム向上のためにランニングエコノミーを意識してトレーニングに取り組むことは重要です。
ランニングエコノミーを改善する方法には、継続的なランニングや適切な走行距離の確保、インターバル走、筋力トレーニング、プライオメトリクストレーニングなどがあります。
もちろん一朝一夕にランニングエコノミーを改善出来るわけではありませんが、無理のない範囲で地道にトレーニングを積み重ねていけば、より効率の良い走りを身に付けられる可能性があります。VO2MAXやLT値の向上とともにランニングエコノミーの改善にも取り組み、マラソンの自己ベスト更新を目指してみましょう。
