テレビのマラソンの中継を見ていると、「ペースメーカー」という言葉を良く耳にします。「PACE」というゼッケンをつけて、先頭集団の前を走っているペースメーカーと呼ばれる彼らは一体何者か。なぜ彼らのようなペースメーカーが必要なのか。初めてマラソン中継を見る人は気になっている方も多いはず。
そこでこの記事では、初めて東京マラソンや福岡国際マラソンといったマラソン中継を見る人にもわかりやすいようにペースメーカーとは何か。どんな役割があるのか。彼らは誰で、何のためにペースメーカーという仕事を引き受けているのか、といったようにペースメーカーに関して詳しく紹介させて頂きます。
目次
マラソンのペースメーカーとは
マラソンのペースメーカーとは、マラソン大会で先頭に立ちトップ集団を引っ張って走るランナーのことです。マラソン中継で、トップ集団のすぐ前を走る「PACE」というゼッケンをつけて走っているランナーが、まさにペースメーカーです。ペースメーカーは、「PACE(ペース)+(MAKER(つくる人)」という言葉通り、ペースを作るのが仕事です。
ペースメーカーは世界記録や日本記録の誕生を期待して大会主催者側が導入するもので、日本では東京マラソン、福岡国際マラソン、海外ではベルリンマラソン、シカゴマラソンなどトップ選手が多く参加する人気レースで多く導入されています。現在の世界記録、各国の国内記録も多くはペースメーカー先導の元に誕生しています。そのため、現在では好記録を出すためには、ペースメーカーはなくてはならない存在になっています。
マラソンのペースメーカーはなぜ必要?その役割は?
現在、主要なマラソン大会では、ペースメーカーを導入するのが一般的です。東京マラソン、福岡国際マラソン、別府大分マラソン、びわ湖マラソン、大阪国際マラソンと日本の大会でも、当たり前のようにペースメーカーがいます。なぜ、マラソン大会でペースメーカーが必要となるのか。その理由は、世界記録や日本記録といった好タイムを叩き出すのにペースメーカーの役割が重要となるからです。
役割①設定ペースで先頭集団を引っ張る
ペースメーカーの一番の役割は、設定ペースを守り、先頭集団を牽引することです。マラソンを走る場合、自らペースを作って走るよりも、誰かに前を走ってもらい引っ張ってもらった方が楽に走ることが出来ます。そのため、優勝や好記録を目指して走るランナーは、ペースメーカーの後ろを走ることで、前半は体力を温存しつつ良いペースで走ることが出来るというわけです。
大会当日のペースメーカーの走るペースは当日までに「1キロあたり〇分〇〇秒ペース」といった具合に主催者側が決定します。そのペースは時には世界記録ペースであり、時には日本記録ペースであり、時には世界大会への参加標準を上回るペースであったりします。ペースメーカーは、与えられた距離をそのペースを守って走ります。
役割②風除けとなる
ペースメーカーのもう一つの役割は風よけです。マラソンを走っていると強い向かい風を受けることがあります。向かい風になるとペースダウンしてしまいますが、ペースメーカーが前にいればの影響を受けにくくなるのでペースダウンしにくいです。強い風が吹いていない時も空気抵抗を少なくすることが出来るので、ペースメーカーの後ろを走ることで前半から中盤にかけて体力を温存することが出来ます。
マラソンのペースメーカーを務める人はどんな人?
ペースメーカーを務める人は、多くはペースメーカーを専門とするランナーではなく、オリンピックや世界陸上を目指して走っているようなプロのマラソンランナーや実業団の長距離選手たちです。ペースメーカーは、20~30キロ地点まで世界記録ペース、日本記録ペースとかなり速いペースで走る必要があるので、かなりの走力を有する選手たちです。多くは主要なフルマラソン、ハーフマラソンの大会で入賞するレベルの選手たちで中にはオリンピックや世界陸上でメダルを獲得した実績を有する人もいます。
日本のマラソン大会でペースメーカーを務めるランナーは、ケニアやエチオピアといったアフリカ勢の選手たちが多いですが、日本の有力な若手選手が務めることも多いです。近年では2017年東京マラソンで佐藤悠基選手、2018年と2019年の東京マラソンで村山紘太選手がペースメーカーを務めて話題となりました。
ランナーがペースメーカーを引き受ける理由
理由①報酬
ランナーがペースメーカーを引き受ける一つの理由は、報酬を得られるためです。特に海外の選手では、ペースメーカーを専門とする選手もいます。
理由②経験
もう一つの理由は、経験を済むためです。まだフルマラソンで実績の無いランナーが、ペースメーカーとして大きな大会へ参加し、実力ある選手たちを引っ張って走ることで、自信のマラソンキャリアへつなげていくのです。まだフルマラソンの実績が乏しい、年齢が若いといったペースメーカーの場合は経験を積むことが目的である場合が多いです。
マラソンのペースメーカーの報酬はどのぐらい?
一般的なマラソン大会のペースメーカーは、1レースあたり20~30万円が相場です。これは賞金制度があるフルマラソンの大会の入賞レベルに相当する金額です。もちろん、全てのランナーが一律の報酬ではなく、ランナーのレベルによって報酬が変わります。世界記録を目指すようなペース設定で走る場合、ペースメーカーを頼める選手はある程度限られてきます。そのため、30キロまで世界記録ペースで走れる実力を持った選手にペースメーカーを依頼する場合は、桁が上がり数百万円になります。
また、一般的な市民マラソンにおけるサブ3、サブ4、サブ5ペースで走るようなペースメーカーの場合は、基本的に無報酬です。マラソンのトップ選手を牽引するようなペースメーカーでない限り報酬はありません。そのため、市民マラソンにおけるペースメーカーはボランティアで成り立っています。
マラソンのペースメーカーは最後まで走っても良い?
ペースメーカーの多くは、30キロまで走るのが仕事です。一定のペースを守り30キロを走り終えたら、コースを離れ棄権します。しかし、必ずしも決められた距離で棄権しなければいけないということではありません。ペースメーカーの契約書に「30kmを走り終えた後も走っても問題無い」という条項が盛り込まれているなら、そのままゴールまで走り続けて大丈夫です。ペースメーカーは、他のランナー同様に出場選手の一人として登録されているので、1位でゴールすることが出来れば、1位となり獲得賞金をゲットすることが出来ます。
実際、1994年のロサンゼルスマラソン、2000年ベルリンマラソン、2017年バルセロナマラソンではペースメーカーとして参加した選手が予定の距離までペースを刻むという仕事を終えた後もそのまま走り続け見事優勝しています。
ただし、ペースメーカーとしての仕事を終えた後に完走しても良いという条項が無い場合は、レース途中で係員に止められる場合があります。2010年福岡国際マラソンではペースメーカーのキプタヌイ選手が設定ペースより速く走り、さらにトップ独走のまま設定距離を過ぎても走り続けたため、30km過ぎで係員に制止される形で棄権となりました。
ペースメーカーは世界各国で賛否両論!その理由は?
2時間1分台へと突入した高速化の時代に、ペースメーカーはなくてはならない存在となっています。しかし、「ペースメーカーはいらない」と批判の声も多いです。その理由は、ペースメーカーの導入することで、本来のランナー同士の競争が阻害されてしまうためです。多くのマラソンレースは、ペースメーカーが離れる30kmまでは横並び状態です。スタートで先陣を切って走るランナーはいませんし、駆け引きでペースアップを図るランナーもいません。そして誰が先頭を走るのか譲りあいによるスローペースもありません。毎回同じレースを見ているかのように錯覚してしまうほど、30kmまではみんながペースメーカーにぴったりとついていく同じ展開なのです。そのため、「ペースメーカーがいるとつまらない」と感じる人は多いです。
もちろん、全てのマラソン大会でペースメーカーがいるわけではありません。基本的に多くのランナーが好記録を狙って走るような高速レースではペースメーカーがいますが、タイムよりも順位争いが重要となる「オリンピック」や「世界陸上」、2020年東京マラソン代表権をかけた戦い「MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)」ではペースメーカーはいません。また、メジャー大会である「ボストンマラソン」は開催当初から一貫してペースメーカーを採用していない数少ない大会として有名です。
今一度、マラソンのペースメーカーに注目してみよう
ペースメーカーがいるとつまらないという意見もありますが、レースでペースメーカーが果たしている役割を知っておくと、マラソンの中継を見るのがもっと楽しくなります。ペースメーカーは大会主催者側の設定ペースで走っています。それは好記録を狙ったペースです。ペースメーカーがしっかりとラップを刻んでいけば、おのずと好記録が生まれる可能性が高くなります。もちろん、ペースメーカーも普通の人間です。時には失敗してしまうこともあるでしょう。また、時にはペースメーカーが最後まで走り優勝してしまうこともあります。マラソン中継では、ペースメーカーにも注目してみましょう。